れあこん

書評、映画評、音楽評など、各種レビュー記事を掲載しています。

『無人在来線爆弾、全車投入!』 - シン・ゴジラ レビュー

はじめに

川崎良くやった』という評判を良く聞く本作。 映画に地方自治体が協力することで知名度が上がってうんたらかんたら、というまことしやかな噂に惹かれ……また、勿論、エヴァの監督である庵野氏の新作ということもあり、鑑賞してきました。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

ゴジラ FINAL WARS」(2004)以来12年ぶりに東宝が製作したオリジナルの「ゴジラ」映画。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の庵野秀明が総監督・脚本を務め、「のぼうの城」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の樋口真嗣が監督、同じく「のぼうの城」「進撃の巨人」などで特撮監督を務めた尾上克郎を准監督に迎え、ハリウッド版「GODZILLA」に登場したゴジラを上回る、体長118.5メートルという史上最大のゴジラをフルCGでスクリーンに描き出す。内閣官房副長官・矢口蘭堂を演じる長谷川博己内閣総理大臣補佐官・赤坂秀樹役の竹野内豊、米国大統領特使カヨコ・アン・パタースン役の石原さとみをメインキャストに、キャストには総勢328人が出演。加えて、狂言師野村萬斎ゴジラモーションキャプチャーアクターとして参加している。

感想/印象に残ったフレーズ

64年の時を経てリメイク?された本作。 恐らく2016年現在の日本を舞台にしているのでしょう、現代版ゴジラとしてとても興味深い作品に仕上がっていました。ネットの情報の素早さ・それに対する組織社会の情報収集/意志決定の遅さなど、現代日本において課題と思われている事象を取り入れながら、主人公である矢口が現場主義で暴れ回る作品でした。が。とは言うものの、それが良い方に傾いてるかと言えば、必ずしもそうとは言い切れず。旧態依然の体制を壊して矢口の活躍を描きたいのかと思えば、そんなこともないようでした。『旧態』に当たる人々の描き具合が甘く、なんだかんだ有能だったり信念がある人が多いため、全く以てカタルシスに欠けます。矢口は矢口でそもそも官房副長官なので、そういった激しい展開を期待するのは筋違いなのでしょうか。

ヒロイン役であるパタースンが石原さとみである点も今一ピンと来ませんでした。アメリカを初めとする国連が、ゴジラへの核攻撃を決めていく流れになりますが、そのやりとりの多くを、見た目が日本人である石原さとみとおこなっています。この部分も正直臨場感に欠けます。誰でも良いとは言いませんが、分かりやすく欧米の女優さんをキャスティングした方が、東京への核攻撃の意味をより重く伝えられたのではないかと。
※念のため補足しておきますが、石原さとみの演技自体は素晴らしかったと思います。それだけにこのキャスティングは勿体無いなと。。。

そして、最終的には氷漬けになったゴジラ。ラストのシーンで「ゴジラが発した放射性物質半減期は20日間、数年経てばほぼ無害化される」と会話されています。2016年の現代の日本では、この結末がとても空虚でむなしい物に感じられてなりません。

ストーリー的には何とも言えない本作ですが、ビジュアル面は素晴らしいのひと言でした。特に、ゴジラが初めてレーザーを吐いて都内を焼き尽くすシーンは鳥肌が立つほど。この演出は素敵ですね。途方も無い絶望感を味わうことができました。

また、ストーリーからはずれますが、、、本作、ゴジラが被害を与えた地域に縁があるか否か?で楽しめ具合がまるで違うんだろうな、と感じます。蒲田出身、川崎在住である筆者からすると、地元総出演と言った作品でした。序盤、ゴジラが蒲田を侵攻していく際には、「ああ、心の故郷である蒲田駅が……!」だとか「ピタットハウスが破壊された!」だとか、ゴジラよりも地元の街が破壊されていく様ばかりが目に付きました。 また、多摩川を最終防衛ラインとする多摩作戦では、京急の鉄道が宙を舞って六郷土手に落下する様がとても印象的で。普段、自分がランニングしているコースが無残にも瓦礫で埋まっていく様は圧巻でした。

最も印象的だったシーンは、本記事のタイトルにもしている『無人在来線爆弾』ゴジラに突撃していくシーンですね。そう、山手線、京浜東北線東海道線が目標=ゴジラに勢いよく突撃していくシーンです。いやはや、思わず声が出てしまうほど笑ってしまいました。togetterでも皆さまつぶやかれていますが、「お前ばっかじゃねぇの!最高だぜ!」と。心からそう思いました。

おわりに

賛否ありそうな本作ですが、採点は81点です。 ストーリーやキャスティングについては疑問符が付きますが、映像面が素晴らしく、『無人在来線爆弾』という渾身のギャグも飛び出し、筆者的には中々楽しむことが出来ました。何だかんだラストのシーンではボロ泣きでしたし(^_^;)

余談ですが、長谷川博己演じる矢口が、見た目、小泉進次郎に似ている様に感じました。自分の血筋をも利用してのし上がる、政治家向きのタイプという設定と相まって。

シン・ゴジラ音楽集

シン・ゴジラ音楽集

2016/09/12 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎

彼女が男をヒーローにする - デッドプール レビュー

はじめに

巷で話題沸騰のデッドプール! マーブル作品ではあるものの、アイアンマンなどの正統ヒーローではなく、 むしろ奇をてらった系のヒーローである彼。ここまで人気が出るとは意外でした。 余りマークしていなかったのですが、ようやく重い腰を上げ見に行って参りました。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

好き勝手に悪い奴らをこらしめ、金を稼ぐヒーロー気取りな生活を送っていた元傭兵のウェイド・ウイルソンは、恋人ヴァネッサとも結婚を決意し、幸せの絶頂にいた矢先、ガンで余命宣告を受ける。謎の組織からガンを治せると誘われたウェイドは、そこで壮絶な人体実験を受け、驚異的な驚異的な治癒能力と不死の肉体を得るが、醜い身体に変えられてしまう。ウェイドは、赤いコスチュームを身にまとった「デッドプール」となり、人体実験を施したエイジャックスの行方を追う。

感想/印象に残ったフレーズ

デッドプールがとてもふざけたキャラクターなので、 彼のノリが受け入れられるか否か?で作品に対する評価は多少変わりそうです。 私も下品なのは耐えられますが、人をサクサク殺していくのは中々馴染めなかったです。

ですが、それも話の途中から納得感を持って観る事ができました。 物語の中盤から明かされる、デッドプール誕生の秘密。 ウィルソンが末期癌から復活するために頼った相手が実は人体実験をしている悪人達で、 そこで耐えた難い痛み・体験をしたこと。それを踏まえて考えれば、彼の行いも当然だなと。

ストーリー的には王道のボーイミーツガールで。 ハッピーエンドまでの流れは正直ありきたりで、 見ていても「当然上手くいくんだよね」という感が拭えず、ドキドキはしなかったですね。

本作はアクション映画ではあるものの、 物語の結末をハラハラしながら見るというよりは、コメディを楽しむのが正しい見方なんじゃないかな、と感じます。 序盤から中盤からずっとファックファック連呼していますし、終盤に訪れるヒーローとヒロインの再会のシーンでは、 デッドプールが親指と人差し指で作った輪っかに、指を出し入れ見せる。最高にクズです。 TEDに近いイメージですかね。こういった作品が好きな方には堪らないんじゃないでしょうか。

以下、小ネタではあるのですが。 終幕時、山羊(羊?)の上にデッドプールがまたがってうろうろするイラストが出るんですね。 その際に、山羊に生えた角をデッドプールが徐に手でしごいて、 最終的に角の先からレインボーな何やらが溢れ出します。 この演出がデッドプールって作品を端的に表しているなぁと感じました。この演出は不思議と凄く好き。 是非、最後まで席に座って見ていただきたい。

おわりに

というわけで、総合評価は63点です。 アクションの演出はとても素晴らしかったですね。 相変わらずの没入感、爽快感。心躍る戦闘シーン、堪りませんでした。

ただ、デッドプールの語りが正直微妙でした。 場面を説明しながら観客に語りかける手法、ときどき見かけるのですが、今作にはあまりあわないなと。。。 映画の世界に没入してこそ楽しめる世界観だったと思うので、集中できず若干白ける感がありました。 アクション・コメディといった話の本筋の部分が面白いだけに、なんだか惜しい作品でした。

また今回、MX4Dでの鑑賞(2回目)だったのですが、 良い部分と悪い部分を感じました。 (まだレビューを書いていないのですが、)シビル・ウォーを見たときには 初めてと言うこともありとても新鮮に凄いと感じたのです。 ですが、今回再び似たような演出が多くあったことで、 映画に対して無理矢理会わせている感を多く感じてしまいました。 登場人物が殴られているところで背中がボコボコなったり、盛り上がる所で霧がプシャーッと吹き出したり。 手法としてそれしかないのかもしれませんが、毎回これだとMX4Dで見る価値について考えざるを得ないなと。

2016/06/08 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎

アプリケーションエラー発生 - 瓦礫のソフィー / 獣の仕業 感想

はじめに

立夏さん主宰の獣の仕業。
出口なし以来約半年ぶりの公演、そして、今まで彼ら彼女らが演じたのを観たことがないSFというジャンルでの挑戦ということで、是非観に行かねば!と思った次第です。
あらすじを読んだ際に厨二心がとてもくすぐられたこともあり、大変楽しみに伺いました。

概要とか

いきなりネタバレですが、結果的に"A"の心の中に終始するお話です。人の病気が科学の進歩でなくなり、人の記憶の正体が判明し、共有・再利用出来るようになった世界。その世界で、どうにもならない病を起こす現象"虹"が出現した。そんな背景でストーリーは進みます。

本作、何が良いって、キャラクターやら固有名詞やらの名称が大変興味深い。
脚本を書かれた方がエンジニアだからなのでしょうか、一々SE心をくすぐるのです。登場人物名前がnullだったりarrayだったりkeyだったりして、何ともニヤニヤしてしまいます。また、他の人とソフィーを共有するための手段の名前がシーケルなのも良いですね。Sequel、SQL。IT業界では情報の格納・取得をするための手段として用いられるLanguage。ズバリです。そして最後に、人の魂が集う『トーラ』。これは北欧神話の『Thor』らなのかな?とか勝手に思いながら観ていました。
(但しThorが何の神なのかは分からず……帰宅して調べても???なので、残念ながら関連性は無いのでしょう。。)

印象的なシーン

いろんなメッセージが込められていると思います。
・ソフィアで記録できない『トーラ』との邂逅、その共有出来ない感。
 何でもかんでもシェアリングされてしまう現代に対する警鐘。
・人類が進化に向けて見境無くモラルなく歩を進めていくことへの警鐘。
とか。なんとも表層的な箇所ですが、、、

以下個人的に印象的なシーンを2つ。

1つ目、"A"が死ぬ間際のシーンで、"Z"に話した内容。
「残りの人生を、死んでしまった人達を覚えていて、思い出し続ける」的な台詞があったかと思います。これは僕にとってはとても大事な言葉で。漫画『ワンピース』の中にも、近しいこんな台詞がありました。
「人はいつ死ぬと思う?(中略)人に忘れられたときさ!!!」
ちょっとニュアンスは違いますが。"A"のその思いの大切さ、それはとても共感できるものでした。

2つ目、最後に"Z"が"A"の様な様々な思いを受け継いで行きたい?的な話をしていたかと思います。この悲しい思いは共有されて後生に受け継がれ続けるべきものなのか?これは難しい問題だなぁと。触れられたくない、忘れ去りたいという思いがある一方、そういった思いに触れることで教訓として行きたい、といった考え方もあって。それこそ"A"が閉じていた心を無理矢理広げたことが良かったのかは誰にも分からないですし。結局、答えなんかその場その場で全て違っていて普遍的なもの何て何も無いんでしょう。

演者さんについて

keyの演者の方は初めて観たのですが、今まで私が見て来た獣の仕業にない、どっしりとした落ち着きを作品に与えていたように感じました。

そして、"A"の人。
ヴェニスの承認や出口なしで観てはいましたが、全然違う演技で驚きでした。あんな引き出しあるんだ、と、感心し切り……偉そうですね……感動し切りでした。

あと、金髪の方、時々声が声優っぽくなるのですね。可愛いなぁと感じる声と、野太い迫力のある声と。意図的に発生をぶらさせているんでしょうか、凄いですね。

音楽

素敵。毎度ながら素敵。最後、波の音で終わるあの感じ。全然別作品なのですが、DramaticCompany Inhighsの『祝福』の、船底に居るような重たい雰囲気がフューチャーされている様に感じました。

おわりに

獣の仕業×SF作品。
カレーに牛乳と言いますか、生ハムにメロンと言いますか。私の印象では共通点・交点を事前に感じられることが出来なかった組み合わせで、どんな作品を魅せてくれるのだろう!と不安と期待を胸に観劇したのですが。とても美味しく調理されていて、なんとも食べ応えのある味でした。

シェイクスピア原作の際に発生する既存の台詞をミキサーシェイクで混ぜ合わせた様な、とても潔い、ある種乱暴なまでの勢い・表現は成りを潜めていて。序盤で詳細に舞台背景を説明してくれているので、恐らく今までの観劇した中で一番すんなり頭の中に入ってきました。あまりにも丁寧だったため、設定の説明だけでお話全てが終わってしまうのでは……という良く分からない不安を感じてしまう程でした。実際、物語の時系列が進んでいくようなストーリーではなかったため、それに近しかったですが。。

個人的には『トーラ』が気になって仕方なかったです。勝手に『バケモノの子』のラストシーンで出てきた鯨のようなものをイメージしていました。脚本に演技に刺激され続けた想像力が為させられた技なんでしょう。自分が普段映画ばかり観ているからかもしれませんが、3D映像で観てみたい強く感じました。是非映像化の暁には透き通った、きらきらと儚く仄かに輝く魚の群れを観てみたいです。

これならわかるSQL 入門の入門

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登らないのは罪だよ - エベレスト 3D レビュー

はじめに

11月はこれまで映画館に3回も足を運んでいたのですが、その度に上映前の宣伝で流れていた本作。エベレストを部隊にした壮大な映像に興味を引かれ、観る事に。実際にあった事件を題材としたノンフィクションとのことで、そういった意味でも楽しみな作品でした。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

エベレスト登頂を目指して世界各地から集まったベテラン登山家たち。それぞれの想いを抱えながら登頂アタックの日を迎えるが、道具の不備やメンバーの体調不良などトラブルが重なり、下山が大幅に遅れてしまう。さらに天候も急激に悪化し、人間が生存していられない死の領域「デス・ゾーン」で離ればなれになってしまう。ブリザードと酸欠の恐怖が迫る極限状態の中、登山家たちは生き残りを賭けて闘うが……。

感想/印象に残ったフレーズ

心なしか終始重い雰囲気に包まれている本作。史実を忠実に再現していることもあり、全体的に起伏も少なく、演出も正直微妙でした。

1.ありがとうございます、ありがとうございます
2.残酷なる結末

ありがとうございます、ありがとうございます

日本人唯一の登場人物であり登山者であるヤスコ。彼女がエベレスト登頂した際に 「ありがとうございます、ありがとうございます」と拝んでいたシーンが、日本人としてとても心に残りました。 外国の映画だけれども、ちゃんと日本人を使い、日本の文化を踏まえて、然るべき演出をしている。 当たり前のことなんですけれど、何か嬉しく思いました。

残酷なる結末

ガイドであるロブの判断ミスによって訪れた最悪の結末です……本作の肝であり、描きたかったことそのものなのでしょう。1人の客が体調悪化したにも関わらず登頂したいと言い張りました。
「この機会を逃したら“世界最高峰”に登ることは2度とないだろう」と。
結果的にロブは彼を山頂まで連れて行き、けれども、その後彼らを麓まで送り届けることはできず。その上、自分自身も犠牲になってしまいました。

日本では良く言われていることですが、山は怖い、と。それにも関わらず、客のわがままを聞いてしまったロブ。客の言い分も分かります、特にあと一歩で山頂まで行ける状態なら尚更そうかも知れません……けれど、そこはプロフェッショナルを遠さなければいけない場面だったのでしょう。悲劇的な結末でした。

……とは言うものの、正直自分は彼らに感情移入をすることは出来ませんでした。山という危険な場所に来たにも関わらず、他人への迷惑を顧みずに自分の欲望を優先する客、厳しい判断を出来ずに犠牲となったロブ。悲劇ではあるのですが、なるべくしてなった必然といった印象を受けました。

以下、余談です。後から知ったのですが、ロブの奥さんを演じているのは『イミテーション・ゲーム』で好演したキーラ・ナイトレイだったのですね。 www.rarecomp.com
お気に入りの女優の1人だったはずですが、鑑賞中は全然気付きませんでした……

おわりに

本作の採点ですが、62点です。
映像が凄いという前評判で観に行ったつもりでしたが、正直映像で惹かれるようなシーンは見当たらず。鑑賞後に調べてみたら「ヒマラヤで実際に撮影した」 ということに価値がある作品だったようです。そんな前情報を知らないと凄いと思えないような作品じゃどうしようもない、ですよね。 ストーリー自体も好みでは無いバッドエンドであり、その経緯についても(前述の通り)特に同情的な気持ちになれる訳でも無く。淡々と過ぎ去った2時間1分でした。正直あまりオススメできません。

2015/11/18 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎

楽しいことを考えろ - PAN〜ネバーランド、夢のはじまり〜 レビュー

はじめに

前回に続きTOHO CINEMASのシネマイレージ・ウィークでに見て参りました。2本目は『PAN〜ネバーランド、夢のはじまり〜』。ピーターパンの物語ということで、幼い頃童話が大好きだった筆者には堪りません。期待を胸に映画館に足を運びました。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

ロンドンの孤児院に暮らす少年ピーターが母親を探すためにネバーランドに旅立ち、若き日のフック船長やタイガー・リリーといった仲間たちとの出会いや、ネバーランドを牛耳る海賊・黒ひげとの戦いを経験していく姿を、ファンタジックな映像美とともに描く。

感想/印象に残ったフレーズ

本作、1にも2にも映像が美しい!もちろんそれだけではないのですが、最も印象的だったのは映像ですね。観ているだけで幸せな気分に浸れる、ファンタジックな映像美。いやはや、堪りません!
1.空飛ぶ海賊船
2.妖精の国を探すBGM
3.海賊黒ひげ……?

空飛ぶ海賊船

ピーターが船に乗せられて孤児院から出発した直後。海賊船がいきなり空を飛んだかとおもったら、海辺に降りてきてドリフトを決めるのです。華麗に海の水にブレーキを掛けながら、再度空に飛び立っていく、この展開が格好良くて堪りませんでした。アクションだけでここまで魅せられるのか……!と感嘆しました。

妖精の国のBGM

劇中、フックが海賊船に乗って人間の世界に帰り、タイガーリリーとピーターで妖精の国を探すため歩き出すシーンがあります。 この場面の音楽が正にファンタジーといった具合で堪らないのです。これは是非本編を観て味わっていただきたい……!

海賊黒ひげ……?

ここまで本レビューを読まれた方で、童話のピーターパンをご存知の方は疑問に思うはずです。黒ひげ?あれ、ピーターパンが戦ったのはフック船長じゃないの?と。 本作の設定の妙が正にここにあります。フックが、いわゆる"フック船長"になる前の時代背景でのお話なのです。

それを思わせる描写が本編にもいくつか出てくるため、観客は思わずにやっとしてしまう仕掛けになっています。 例えば、カヌーで海を旅しているシーン。ワニが襲ってくることを知ったフックは、ピーターやタイガーリリー以上に、必要以上にワニを怖がるのです。まるで何かの予感がするかのような。 次に、非空挺の上でピーターとフックがどっちが船長なのかを話し合ったシーン。ピーターがフックに対し、「フック船長だ!」と宣言します。ここから悲劇の未来が始まるんですね。 そして、本編のラストで、パンが自分が居た孤児院に戻ったシーン。「彼は海賊なの?」と問いかける子供に対して「今はまだね」(うろ覚えですが)と答えます。これから戦うことを暗示しているかのように感じられます。

おわりに

というわけで、本作の採点は、87点です。 ストーリーにもニヤニヤさせられましたが、何よりも世界観を表現仕切った映像美・音楽美、これに尽きると思います。Blu-Rayが発売したら是非もう一度観てみたい。そう思わせてくれる傑作でした。

ピーター・パン & ピーター・パン 2 ネバーランドの秘密 / DVD3枚組

ピーター・パン & ピーター・パン 2 ネバーランドの秘密 / DVD3枚組

2015/1/08 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎

ここはパリだもの。わかるでしょ? - ミケランジェロ・プロジェクト レビュー

はじめに

TOHO CINEMASが2015/11/07〜13まで会員限定サービスをやっていました!通常1400円の入場料ですが、この期間中はいつ見ても1100円!普段私はレイトショーorナイトショーで1300円で見ていますが、それよりも安い!ということで2本ほど見て来ました。

まずは1本目、ミケランジェロ・プロジェクト。ナチスが相手で戦う辺りは過去に記事にした『イミテーション・ゲーム』や『チャイルド44』を彷彿とさせますが、本作では一風変わって芸術作品を守る戦いを繰り広げます。果たして……

www.rarecomp.com

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概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

ヨーロッパ各国に侵攻したナチスドイツが歴史的に重要な美術品の略奪を繰り返していた第2次世界大戦下、ルーズベルト大統領から建造物や美術品を保護する任務を託された美術館館長フランク・ストークスは、7人の美術専門家で構成される特殊チーム「モニュメンツ・メン」を結成し、危険な状況下で美術品保護のための作戦を遂行していく。

感想/印象に残ったフレーズ

観終わった後の率直な感想は、「登場する仲間達が多くて誰が誰だか分からん」でした。顔が似ている人が多かったりストーリーが早かったりといった理由もあるかとは思いますが、どんな個性を持ったキャラクターなのか、全員を把握することが困難でした。

本作は冒頭でも記載しましたが、芸術作品を守る部隊のお話。ジョージ・クルーニー演ずるストークスが渋格好良く、その格好良さに助けられた作品だと思います。

※余談ですが、ジョージ・クルーニーは以前レビューした『トゥモローランド』や『ゼロ・グラビティ』でも主演されていました。ここ数年ノリにノっていますね。

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さて、印象的だったシーンは以下の2つ。
1.ここはパリだもの。わかるでしょ?
2.人の命と、芸術作品の価値・重さ

1.ここはパリだもの。わかるでしょ?

フランスはパリで、本作の紅一点で恐らくヒロインポジションであるシモーヌシモーヌが芸術作品が何処に行ったのか?その情報をジェームズに渡す代わりに、夜のお誘いをするシーン。ここでまさかのジェームズが断るという流れ。シモーヌ自身確かに野暮ったく描かれているのですが、普通の映画作品でしたら一旦メイクラブした上でストーリーに戻るはず。ここでジェームズが何もせずに芸術品の捜索に戻るという男気溢れる行動をやってのけます。

監督はモニュメンツ・メンの任務の厳しさを表したかったのでしょうか?それとも、芸術かぶれの野暮ったい女性はそういった対象にすらならないということを表現したかったのでしょうか。思わず笑ってしまいましたが……もし笑わせることが狙いだとしたら、脚本としては大成功ですね。

2.人の命と、芸術作品の価値・重さ

ラストシーン。大統領でしょうか?偉い人に問われたジェームズ。 ミケランジェロの聖母子像の奪還に人の命が沢山犠牲になった。その価値はあったのか?と。芸術作品と人の命を天秤に掛けたときに、人道的な立場から人の命を優先するべきでは無いのか?という問いです。

本作では、その問いに対し、きっぱりと「No」と言っています。この部分の潔さ、大変興味深かったです。デリケートな内容故にぼかしごまかしエンディングを迎える・あるいは人の命の方が大事だよね、という作品が多い中、本作ではそれを明確に否定しています。芸術作品とは過去の偉人が作ったものであり、沢山の人が生まれ、死に、それでもずっと命が続いていくのは、そういった優れたものを脈々と受け継いでいくため。本作は「人はミームの乗り物でしかない」ということを地で行った作品なのだなと感じました。

おわりに

本作の採点ですが、66点です。
物語としてはもっと楽しい魅力あるものに出来るはずです。キャストなんかとても魅力的に見えたのですが、いかんせん物語の流れや演出がよろしく無かったですね。監督が伝えたい思いを伝えることは出来ているかと思いますが、それを映像作品・娯楽作品としての完成品に仕上げる部分がお粗末で、とても勿体無かったです。

以下、余談ですが。
外国で上映された際のタイトルはThe Monuments Menだったのですが、国内ではミケランジェロ・プロジェクトになっています。過去に様々な作品が国内で上映される際に付けられた邦題で文句を言われているかと思いますが、本作についてはとてもぴったり・洒落たタイトルを付けたなぁと感心しきりでした。

MONUMENTS MEN

MONUMENTS MEN

2015/11/07 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎

君はきっと、素晴らしい大人になる - リトルプリンス 星の王子さまと私 レビュー

はじめに

皆さまご存知、世界各国の子供たちに愛読されている児童文学の最高峰である『星の王子様』。本書が世に出て以来、初めて映画作品となったのが本作とのことです。

どこのアニメーションスタジオが作っているのでしょうか、ピクサーよろしくとても可愛いらしい3Dモデリング。単に人の顔だけでなく、星の王子様の原作の画に近い形での再現もしており、とても高い技術力・原作への愛が感じられます。

私自身、2ヶ月ほど前に箱根の『星の王子さまミュージアム』に行ったのですが、
その際に現地に本作品の宣伝ポスターやポップが展示されていたこともありまして。
この2ヶ月間、本作をとても楽しみにしていました。 f:id:tsuyoring:20151004110555j:plain ※展示ポップを撮り忘れたので、写真はイメージ(星の王子さま像)です。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

新しく引っ越した家の隣に住む老人が気になる9歳の女の子。若い頃は飛行機乗りだったという老人は、昼間は飛行機を修理し、夜は望遠鏡で空を眺めて暮らしていた。2人は仲良くなり、女の子は老人から、砂漠で出会った星の王子さまの話を聞かせてもらう。しかし、やがて老人は病に倒れてしまい、女の子は老人が会いたがっている星の王子さまを探すため、オンボロ飛行機に乗って空に旅立つ。

感想/印象に残ったフレーズ

観終わった後しばらく、涙が頬をつたっていて立つことが出来ませんでした。
あの名作を良くこうも美しくアレンジ仕切ったな、というのが率直な感想です。

本作では、一番最初に登場人物の女の子が"大人の世界"で"大切な人"になるために母親の教育の元生活をしています。ですが、引っ越した先で飛行機乗りの老人:サン=テグジュペリと出会って変わっていきます。そして、本当に大切な———目に見えない———ものに気付いていく。これが物語の前半です。

物語の後半は、星の王子様を探すために女の子が旅立ちます。
大人の星で出会った星の王子さま=プリンスは、蛇に噛まれて恐らく転生した後、故郷の星の愛する人=薔薇の記憶を忘れ、大人になる教育を受けて、社会の歯車として大切なことを忘れて生きていました。ですが、何をやっても駄目なプリンス。それもそのはず、彼は元は星の王子さまなのですから。

女の子が見つけててんやわんやするうちにプリンスは記憶を取り戻し、昔の自由なままの心で大人の星を脱出し、オンボロ飛行機に乗って故郷に向かうのです。

さて、印象的だったシーン・フレーズは、以下の4つですね。
 1.「大人って本当に、とっても馬鹿」「子供って本当に奇妙だ」
 2.ビジネスマン、星を所有する
 3.「君はきっと、素晴らしい大人になる」
 4.エンドクレジットの仕掛け
順番に見て行きましょう。

「大人って本当に、とっても馬鹿」

学校に入って勉強をして大人になっていくことを受け入れていた女の子。彼女が老人と出会って、星の王子さまの物語を読んでから変わっていきました。生産性を維持するため、社会にとって大切な歯車になるための生活から、彼女自身が興味を持っている、本当に大切なことの為に生きる生活へ。

そんな中で彼女が、あくせくと働いている大人達を見て言った台詞です。ルールの中で日々を同じようにくたくたと過ごしている大人を見ての台詞。この台詞の対象は、何も第三者の大人だけはありません。

本作では母親がボード上に子供の学習状況をマグネットで分かるようにしていて、進捗具合をチェックする描写が多くあります。そんな中で、自分を育てようとしている母親についても同じように、自分の教育をひたすらチェックしているだけの馬鹿な大人として見ているのです。

まだ経験の少ない子供の視点からの純粋すぎる台詞ですね。私たちも小さい頃はこの少女のようなことを考えていたのではないでしょうか。とても胸に刺さるひと言でした。

物語終盤で、子供の心を失っている星の王子さまが、少女を見て「子供って本当に奇妙だ」と語るのですが、これが前半の彼女の台詞とのとても良いコントラストになっていまして。とても印象的でした。

ビジネスマン、星を所有する

原作ではさまざまな"馬鹿な"大人達の一人でしかなかったビジネスマン。
登場人物のひとりでしかなかった彼が、本作ではラスボスが如き大活躍をするのです。
本作のオリジナルである「大人だけの星」ここを牛耳っているのがビジネスマンです。
彼が努力を重ねた結果、宇宙にあるたくさんの星々を所有するようになります。
少女の星が馬鹿な大人達だけの星になってしまっていたのも全て彼のせいでした。

様々な馬鹿な大人達が描かれている中、彼が何故こんなポジションに居るのか。それは現代が資本主義社会だから。つまり、ビジネスマンの様な人間が崇め尊敬される世の中に私たちが生きているこの世界が成りきっているからではないでしょうか。

彼は来る日も来る日も努力していて、その結果たくさんの富を得ました。それは現代の世界においては、そうなるべき正しいこと、のはずです。このシーン、頑張って働いている現代の大人に対しての配慮を"敢えて"している様に感じました。いやらしいまでの強烈なメタファーですね。

「君はきっと、素晴らしい大人になる」

エンディング直前のことです。
ビジネスマンと戦い、星の王子さまを助けた少女が自分の星に帰ってきて。病院にいる老人と会話をしている際、彼から言われた台詞です。
台詞としてはベタもベタ、ベッタベタなのです。ですが。大事なことを忘れないようにという老人の台詞や彼女のここまでの冒険があいまって、とても濃厚な味わい深い言葉に感じられました。

エンドクレジットの仕掛け

松任谷由実さんの『気づかず過ぎた初恋』とともに流れていくスタッフロール。エンディングの曲がとても素敵で、星の王子さまの世界観ととてもマッチしていました。


映画『リトルプリンス 星の王子さまと私』ミュージックトレイラー【HD】2015年11月21日公開 - YouTube

曲だけでなく、映像も素敵ですね。星の画像の配置が上手にされていて、2Dなのにまるで3次元映像を観ているような錯覚に捕らわれました。

そして何より印象的だったのが、キャストの覧の登場人物が『The Little Girl』『The Aviator』などの名前を持たない表記になっていること。少女や飛行士は、何も本作の登場人物だけじゃないよ、観ているあなたたちがみんなそうなんだよ、と言われているようでした。

さらに、定冠詞のTheが使われているのもポイントですね。
具体的な名前を付けないでおきながら、不特定多数に付ける「a」ではなく、みんながお互いに知っている共通の言葉につける「The」を使っているのです。「なついたらお互い大切になるんだ」というキツネの台詞が思い出されますね。この表記を見つけたとき、胸に熱い思いがこみ上げてきて止まりませんでした。

おわりに

本作の採点は85点です。
『星の王子様』という世界各国にファンが大勢居るであろう作品に対して、王子を記憶を失った状態で登場させるという、批判も巻き起こるであろう設定。それをも含めて上手に料理しきった名作だと思います。

余談ですが、物語の最後にプリンスの顔が絵本の絵のタッチから少女と同じように目も口も動く他の人間達と同じようなタッチに変わります。感情を分かりやすく伝えたい・少女と同じ時代に彼の心自体が本当にやってきた、などの演出上の意図があったのかもしれません……が、個人的には絵本のタッチのままの方が好きでした。

リトルプリンス 星の王子さまと私

リトルプリンス 星の王子さまと私

リトルプリンス 星の王子さまと私 (竹書房文庫)

リトルプリンス 星の王子さまと私 (竹書房文庫)

2015/11/28 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎