れあこん

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パートナーと言うより、過報酬の弟子だな - グレイテスト・ショーマン レビュー

はじめに

ラ・ラ・ランド』を制作したチームが早くも次回作を公開!昨年の今頃に本作に衝撃を受けた身(下記の記事参照)としては、是が非でも観に行かなくては!ということで、封切り翌日に観劇してきました。
www.rarecomp.com

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

貧しい家に生まれ育ち、幼なじみの名家の令嬢チャリティと結婚したフィニアス。妻子を幸せにするため努力と挑戦を重ねるフィニアスはやがて、さまざまな個性をもちながらも日陰に生きてきた人々を集めた誰も見たことがないショーを作り上げ、大きな成功をつかむ。しかし、そんな彼の進む先には大きな波乱が待ち受けていた。

感想/印象に残ったフレーズ

正直に書いてしまうと、序盤は全く楽しめませんでした。 本作の主人公P.T.バーナムの余りのクズっぷりに、共感する部分が一切無くて。

物語の入りは前作同様、ミュージカルで作品に引き込むという、『いきなり!ステーキ』ならぬ『いきなり!ミュージカル』戦法です。この部分では期待通りの作品に概ね満足でした。そのミュージカルのまま主人公とチャリティが結婚するまで一気に物語が進んでしまい、観客としては若干付いていけない感もしましたが。

さて、入りのミュージカルが終わった後からストーリーが始まります。主人公がサーカスを始めるに向けて様々な試行錯誤を繰り返すのですが、特に序盤の彼のおこないが受け入れ難く。それはそれはワルそのもので。沈没した船の登録証を使って銀行から借金をしたり、見世物小屋的に異形のもの達を集め、お金のために彼らを雇って。見る人が見れば人種差別だ、偏見だ、と騒ぎ立てられそうな内容。多分に漏れず自分もそういった感想を抱き、気分を悪くしました。

風向きが変わったのは1度目のサーカスの後に周囲の住人がその薄気味悪さに排斥運動を始めた辺りでしょうか。 『そうだよね、気持ち悪いよね』『全力でバーナムを追い出せ!』『でも、ここまで叩かれるとバーナムを応援したくもなるかな?』 全てがトントン拍子に進んでいく、本物語の胡散臭さにウンザリしていたことに気付くことが出来ました。そして、そのことに気付いてからはスンナリとフィニアスを応援する気になれました。

その後の物語はショートして受け入れることができ、音楽・エンタメ感を十二分に満喫することが出来ました。劇場で観られる方には、是非ともここまで辛抱して観ていただきたいところです。

さて、その後も物語は進みますが、2つほどハイライトとなるシーンを挙げておきます。

まず、フィリップ・カーライルを口説き落とすシーンです。バーナムのサーカスは下流市民に受け入れられたのですが、バーナムはそれだけでは不満で、上流階級の人々にも受け入れられる策を検討します。その中で、上流階級のカーライルに対して一緒に組まないか?と酒場で口説くのです。酒場の中という狭い空間の中で、とても渋く、かつ格好良いミュージカルが展開されます。音のリズムと演者の動きがピッタリマッチして、何とも素敵な仕上がりになっているので是非観ていただきたいですね。
補足ですが、本記事のタイトル「パートナーと言うより、過報酬の弟子だな」はこのシーンの最後にバーナムがカーライルに向かって放った台詞です。この台詞は物語が新たな局面を迎える鍵になると同時に、本作品のフィナーレで再度、新の友情を育んだ2人の間でも交わされるのです。男と男の友情、パートナーシップ、信頼関係。是非とも本シーンを目に焼き付けてください。

次に、歌姫ジェニー・リンドとのワンシーンです。 バーナムが上流階級の人々を相手にショーをするため、米国各地をジェニーと一緒に旅をします。そんな中で、ジェニーがバーナムと乾杯した後にキスをしようとして、それをバーナムが拒むシーン。ジェニーにとってバーナムはビジネスパートナーではなく、一緒に生きていきたい人生のパートナーと考えていました。だが、バーナムにとってはチャリティという幼い頃から愛し続けている妻がおり、彼を待っている娘も2人居て。あくまでビジネスパートナーとしてジェニーを口説いていたバーナム。2人の感情がすれ違い、それぞれが「全てを掛ける」掛け方が違っていて。男女の生き方の違いなのでしょうか。蜜月だった2人の関係の終わりとなるこのシーンはとりわけ印象的でした。
また、私は上記のような捉え方をしましたが、人によってはバーナムとジェニーは既に恋愛関係にあったという見方もあるかと思います。ですが、私の目にはバーナムはあくまで『サーカスバカ・ショーバカ』として見えていました。仕事に自分の全てを注ぎ込んだ男の生き様と考えると、そこで不倫をするという発想自体がないのでは?と思います。

おわりに

前作が余りに名作だったため、期待が大き過ぎてそのハードルを越えられなかった感がありました。
ミュージカル部分については前作以上に凄いですし、人間模様も群像劇として捉えると悪くは無いです。ただ、前者もサーカスという題材ならではという気もしますし、後者もストーリーとして散漫になってしまっている感も否めません。題材と演技が素晴らしい中、それをストーリーとして上手に消化仕切れていない様な感覚が拭えませんでした。
と言うわけで、世の中の評判よりは若干辛口かと思いますが、84点で。もう少しストーリーを美味く纏められた気がして成りません。

2018/02/17 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎

ラ・ラ・ランド (オリジナル・サウンドトラック)

ラ・ラ・ランド (オリジナル・サウンドトラック)