れあこん

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君はきっと、素晴らしい大人になる - リトルプリンス 星の王子さまと私 レビュー

はじめに

皆さまご存知、世界各国の子供たちに愛読されている児童文学の最高峰である『星の王子様』。本書が世に出て以来、初めて映画作品となったのが本作とのことです。

どこのアニメーションスタジオが作っているのでしょうか、ピクサーよろしくとても可愛いらしい3Dモデリング。単に人の顔だけでなく、星の王子様の原作の画に近い形での再現もしており、とても高い技術力・原作への愛が感じられます。

私自身、2ヶ月ほど前に箱根の『星の王子さまミュージアム』に行ったのですが、
その際に現地に本作品の宣伝ポスターやポップが展示されていたこともありまして。
この2ヶ月間、本作をとても楽しみにしていました。 f:id:tsuyoring:20151004110555j:plain ※展示ポップを撮り忘れたので、写真はイメージ(星の王子さま像)です。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

新しく引っ越した家の隣に住む老人が気になる9歳の女の子。若い頃は飛行機乗りだったという老人は、昼間は飛行機を修理し、夜は望遠鏡で空を眺めて暮らしていた。2人は仲良くなり、女の子は老人から、砂漠で出会った星の王子さまの話を聞かせてもらう。しかし、やがて老人は病に倒れてしまい、女の子は老人が会いたがっている星の王子さまを探すため、オンボロ飛行機に乗って空に旅立つ。

感想/印象に残ったフレーズ

観終わった後しばらく、涙が頬をつたっていて立つことが出来ませんでした。
あの名作を良くこうも美しくアレンジ仕切ったな、というのが率直な感想です。

本作では、一番最初に登場人物の女の子が"大人の世界"で"大切な人"になるために母親の教育の元生活をしています。ですが、引っ越した先で飛行機乗りの老人:サン=テグジュペリと出会って変わっていきます。そして、本当に大切な———目に見えない———ものに気付いていく。これが物語の前半です。

物語の後半は、星の王子様を探すために女の子が旅立ちます。
大人の星で出会った星の王子さま=プリンスは、蛇に噛まれて恐らく転生した後、故郷の星の愛する人=薔薇の記憶を忘れ、大人になる教育を受けて、社会の歯車として大切なことを忘れて生きていました。ですが、何をやっても駄目なプリンス。それもそのはず、彼は元は星の王子さまなのですから。

女の子が見つけててんやわんやするうちにプリンスは記憶を取り戻し、昔の自由なままの心で大人の星を脱出し、オンボロ飛行機に乗って故郷に向かうのです。

さて、印象的だったシーン・フレーズは、以下の4つですね。
 1.「大人って本当に、とっても馬鹿」「子供って本当に奇妙だ」
 2.ビジネスマン、星を所有する
 3.「君はきっと、素晴らしい大人になる」
 4.エンドクレジットの仕掛け
順番に見て行きましょう。

「大人って本当に、とっても馬鹿」

学校に入って勉強をして大人になっていくことを受け入れていた女の子。彼女が老人と出会って、星の王子さまの物語を読んでから変わっていきました。生産性を維持するため、社会にとって大切な歯車になるための生活から、彼女自身が興味を持っている、本当に大切なことの為に生きる生活へ。

そんな中で彼女が、あくせくと働いている大人達を見て言った台詞です。ルールの中で日々を同じようにくたくたと過ごしている大人を見ての台詞。この台詞の対象は、何も第三者の大人だけはありません。

本作では母親がボード上に子供の学習状況をマグネットで分かるようにしていて、進捗具合をチェックする描写が多くあります。そんな中で、自分を育てようとしている母親についても同じように、自分の教育をひたすらチェックしているだけの馬鹿な大人として見ているのです。

まだ経験の少ない子供の視点からの純粋すぎる台詞ですね。私たちも小さい頃はこの少女のようなことを考えていたのではないでしょうか。とても胸に刺さるひと言でした。

物語終盤で、子供の心を失っている星の王子さまが、少女を見て「子供って本当に奇妙だ」と語るのですが、これが前半の彼女の台詞とのとても良いコントラストになっていまして。とても印象的でした。

ビジネスマン、星を所有する

原作ではさまざまな"馬鹿な"大人達の一人でしかなかったビジネスマン。
登場人物のひとりでしかなかった彼が、本作ではラスボスが如き大活躍をするのです。
本作のオリジナルである「大人だけの星」ここを牛耳っているのがビジネスマンです。
彼が努力を重ねた結果、宇宙にあるたくさんの星々を所有するようになります。
少女の星が馬鹿な大人達だけの星になってしまっていたのも全て彼のせいでした。

様々な馬鹿な大人達が描かれている中、彼が何故こんなポジションに居るのか。それは現代が資本主義社会だから。つまり、ビジネスマンの様な人間が崇め尊敬される世の中に私たちが生きているこの世界が成りきっているからではないでしょうか。

彼は来る日も来る日も努力していて、その結果たくさんの富を得ました。それは現代の世界においては、そうなるべき正しいこと、のはずです。このシーン、頑張って働いている現代の大人に対しての配慮を"敢えて"している様に感じました。いやらしいまでの強烈なメタファーですね。

「君はきっと、素晴らしい大人になる」

エンディング直前のことです。
ビジネスマンと戦い、星の王子さまを助けた少女が自分の星に帰ってきて。病院にいる老人と会話をしている際、彼から言われた台詞です。
台詞としてはベタもベタ、ベッタベタなのです。ですが。大事なことを忘れないようにという老人の台詞や彼女のここまでの冒険があいまって、とても濃厚な味わい深い言葉に感じられました。

エンドクレジットの仕掛け

松任谷由実さんの『気づかず過ぎた初恋』とともに流れていくスタッフロール。エンディングの曲がとても素敵で、星の王子さまの世界観ととてもマッチしていました。


映画『リトルプリンス 星の王子さまと私』ミュージックトレイラー【HD】2015年11月21日公開 - YouTube

曲だけでなく、映像も素敵ですね。星の画像の配置が上手にされていて、2Dなのにまるで3次元映像を観ているような錯覚に捕らわれました。

そして何より印象的だったのが、キャストの覧の登場人物が『The Little Girl』『The Aviator』などの名前を持たない表記になっていること。少女や飛行士は、何も本作の登場人物だけじゃないよ、観ているあなたたちがみんなそうなんだよ、と言われているようでした。

さらに、定冠詞のTheが使われているのもポイントですね。
具体的な名前を付けないでおきながら、不特定多数に付ける「a」ではなく、みんながお互いに知っている共通の言葉につける「The」を使っているのです。「なついたらお互い大切になるんだ」というキツネの台詞が思い出されますね。この表記を見つけたとき、胸に熱い思いがこみ上げてきて止まりませんでした。

おわりに

本作の採点は85点です。
『星の王子様』という世界各国にファンが大勢居るであろう作品に対して、王子を記憶を失った状態で登場させるという、批判も巻き起こるであろう設定。それをも含めて上手に料理しきった名作だと思います。

余談ですが、物語の最後にプリンスの顔が絵本の絵のタッチから少女と同じように目も口も動く他の人間達と同じようなタッチに変わります。感情を分かりやすく伝えたい・少女と同じ時代に彼の心自体が本当にやってきた、などの演出上の意図があったのかもしれません……が、個人的には絵本のタッチのままの方が好きでした。

リトルプリンス 星の王子さまと私

リトルプリンス 星の王子さまと私

リトルプリンス 星の王子さまと私 (竹書房文庫)

リトルプリンス 星の王子さまと私 (竹書房文庫)

2015/11/28 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎