れあこん

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ライリーのためなら死ねる - インサイド・ヘッド レビュー

はじめに

映画館で色々な作品を観るようになってくると、必然的に開始前の宣伝広告も多くの種類観てしまうかと思います。 この作品もそんな経緯で知りました。映像の美しさ、3Dモデリングの愛らしさに心惹かれ、観ることを決意。 とは言うものの、実は私はピクサーの作品を観るのは初めてでして。期待と不安を胸に映画館に足を運びました。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

ミネソタの田舎町で明るく幸せに育った少女ライリーは、父親の仕事の都合で都会のサンフランシスコに引っ越してくる。新しい生活に慣れようとするライリーを幸せにしようと、彼女の頭の中の司令部では「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」の5つの感情が奮闘していた。しかし、ある時、カナシミがライリーの大切な思い出を悲しい思い出に変えてしまう。慌てて思い出を元通りにしようとしたヨロコビだったが、誤ってカナシミと一緒に司令部の外に放りだされてしまう。ヨロコビは急いで司令部に戻ろうと、ライリーの頭の中を駆けめぐるのだが……。

感想/印象に残ったフレーズ

人の頭の中を描いた本作。
ライリーの成長につれて、彼女の中に居る感情達も成長していきます。
「ある人物の頭の中を人に見立てて表現する」というアイディア自体も面白いですが、
 ※『脳内ポイズンベリー』でもありましたね。
本作はそのアイディア・素材を余すことなく素敵に調理している印象を受けました。 記憶をカプセルで表現したり、性格をテーマパークで表したり、夢を映画作品に見立てたり。 特に記憶のカプセルが司令部内に格納される際の演出は、可愛らしいSFチックなアニメーションでとても素敵でした。

本作のストーリーは概要にある通りですが、
その中でも私にとって良印象だったシーンは以下の4つです。

  1. 悲しみの存在価値を理解する
  2. ビンボンの最期
  3. 思い出に色々な色が混ざった「特別な思い出」が存在する
  4. ライリーのためなら死ねる男を使った決死の大ジャンプ

1つ目の悲しみの存在価値を理解することについて。
序盤からヨロコビを始め、他の感情の足を引っ張るだけだったカナシミ。 ですが、途中、落ち込んでいるビンボンとの会話のシーンを経て、その存在価値が明らかになっていきます。 悲しいことは悪いことではなくて、その結果、より幸せな状況が訪れる事もあると。 ヨロコビはライリーがアイスホッケーの試合で負けたシーンを思い返しながら、そのことに気付いていくのです。

私自身、「悲しい思い出」というものを極力作らないことが大切だと思い、今までの人生を生きてきました。 ですが、そういった感情を抱いたことも含めて「思い出」として昇華することが大事なんだ、と。 起きたことを無理矢理遠ざけたり、感情を殺したりせず、あるがまま受け入れよう……そうこの映画に教えられた気がしました。

2つ目はリンドンの最期。
崖から落ちてしまい、記憶が消えていくビンボンとヨロコビ。 落ちた先・崖の底に居ると、そこにある記憶達は全て消えてしまいます。 そこから抜け出さないと、2人も消えてしまうため、元居た場所へ戻ろうと奮闘します。

ですが、ジェット機に乗って底から抜け出そうと頑張るも、 何度やってもうまくいかず、ついには時間切れなのか、ビンボンの身体が消えだしてしまいます。 自分が消滅することを悟ったビンボンは、それまでのふざけた性格ではなく、 優しい声で、諦めかけているライリーに「次は絶対成功するよ、さぁやろう」と手をさしのべます。 そして、最期のフライト。彼は自分がジェットから降りることでヨロコビを崖の上に帰すのです。 戻ることが出来て大はしゃぎのヨロコビ、ビンボンに話しかけるも、彼はいなくて。 崖の下で、それこそ大喜びのビンボン。「やったー!いけー!」と叫んでいる、そんなシーン。

とてもベタベタな展開、自己犠牲の精神は日本人にとても受ける、という事情はありますが。 本作のメインテーマである感情絡みの脚本ではありませんが、 このオーソドックスなシーンで、私は図らずもボロ泣きしてしまいました。

3つ目、これはラストシーンですね。
思い出に色々な色が混ざった「特別な思い出」が存在することについて。 それまでは単色だった特別な思い出ですが、2つ、3つ、4つ……と、 複数の色が混ざったオーブになっているのです。このシーンはとても面白い表現ですね。

人の心が成長するに連れて、それまで単純な嬉しい!悲しい!という感情だったものが、 より入り組んだ感情・思い出になっていく……それを素敵な映像で表現してくれています。 なんとも印象深いシーンでした。

4つ目はオマケですが……
ヨロコビが司令部に戻るために、ライリーの理想のイケメンを何百、何千体も作り上げ、 彼らを柱のようにして大ジャンプをするシーンがあります。

ヨロコビ自身も「ううん、普通じゃない。普通じゃないことは分かってる!」
って自分に言い聞かせながらの大ジャンプ。笑いが止まりませんでした。 この部分のシュールさ加減は是非本編を観て確かめていただきたいですね。笑

さて、どうしても頂けなかった点も挙げておかなければなりません。
それは、カナシミの声です。彼女のネガティブさ、鈍臭さは狙ったものであり、 その点は(キャラクターに対する好き嫌いは別として)上手く表現されていたと思います。 ですが、全編を通じて、その声には違和感を感じていました。

何だろう、この変な感覚……と思っていましたが、 エンドロールのキャストを見て合点がいきました。大竹しのぶさんが声優していたのです。

確かに鈍くささは表現できているなとは思いました。
ですが、「小さな子が物事をうまく出来ないでドジしている」声ではなくて、
「年をとったおばさんがぐだぐだと鈍くさいことをしている」声なんです。
この物語はライリーの心の成長の物語で、これから司令塔の住人達も一緒に成長していくはず。 それなのに、カナシミの声には「もう、しょうがないな。これから頑張れよ」と 思わせてくれるような愛らしさが微塵も感じられませんでした。

私が観た作品が日本語吹き替え+3D版だったからしょうがないのですが、
これなら英語版を観れば良かった、と残念な気持ちになりました。

※余談ですが、私の行きつけの映画館の場合、3D上映はほぼ確実に日本語吹き替えなのです。英語+日本語字幕+3Dで観れたら最高なのですが、そういう映画館ないですかね……。

おわりに

いやはや、人の心の成長を面白おかしく、素敵に表現仕切っている名作でした。 笑いあり涙あり考えさせられることあり……心の成長を経験した大人ほど楽しめる作品かなと思います。 そんな訳で本作、採点は84点とします。

物語としては、ライリーの少女時代が終わったところまででした。 まだまだ続きがありそうな終わり方をしていたので、続編にも期待出来そうですね。

※正直、ヨロコビが戻るまでで映画が終わるとは思っていなかったので、その点は残念かな。それだけあっという間の2時間でした。

愛しのライリー

愛しのライリー