れあこん

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仕事を辞めることと、死ぬことは、どっちが簡単なわけ? - ちょっと今から仕事やめてくる 映画感想レビュー

はじめに

ブラック企業における違法労働・過労死・自殺が問題となっている昨今。
私自身も新人時代の職場環境が劣悪だったこともあり、どんな物語なのか気になり映画館に足を運びました。

概要 ※映画.comさんより抜粋させていただきました。

仕事のノルマが厳しく精神的に追い詰められていた隆は、疲労のあまり駅のホームで意識を失い電車に跳ねられそうになったところを、ある青年に助けられる。幼なじみのヤマモトと名乗るその青年に全く見覚えのない隆だったが、ヤマモトとの交流を通して徐々に明るさを取り戻し、仕事も順調に進むようになっていく。ところがある日、ふとしたことからヤマモトについて調べた隆は、ヤマモトが3年前に自殺していたという信じがたい事実を知る。

感想/印象に残ったフレーズ(ネタバレ有り)

物語の出だし、まばゆいばかりの星空の下で子供と大人が『人が生きること』について語らうところから始まります。 美しい音楽と何語か分からない彼らの語らいに、まだ他の映画の宣伝が上映されているのかと思うほど。

暫くすると星空のシーンも終わり、一点、ブラック企業で働く隆の日常が始まります。 そこまでの映像落差が良いコントラストとなっており、会社の劣悪環境が際立っておりました。 厳しいノルマと上司のパワハラに押し潰されそうになり、自殺を図ります。 ですが、そこで颯爽と隆を助けるヤマモト。そこからのヤマモトの良い奴っぷりは必見ですね。 筆者は男でそういった趣味もありませんが、ヤマモトの励まし・笑顔には惚れてしまいそうになりました。

段々と隆の心も回復し、ついに営業で契約が取れそうになるのですが。エース社員の五十嵐の策略によって失敗し、再びドツボにはまっていきます。 ついには再び自殺を試みようとしますが、そこに再びヤマモトが現れ、何のために生きているのか?と問うのです。 そして、それは自分自身、そして、自分を大切に思ってくれる人のためであると。 ヤマモトの言葉に大切なことを思い出した隆は実家に帰り、家族と語り合い、そして会社を辞める決意をします。 部長からたくさんの罵倒を浴びながらも、漸く退職をし、隆はスキップをしながら会社を後にします。

ここまでの流れで、正直大変な名作だと感じました。 主人公である隆とそれを助ける山本、それぞれ演じる工藤阿須加福士蒼汰の表現力も素晴らしく、大変引き込まれます。 映像表現も素敵ですね。星空が綺麗、というだけでなく、ブラック企業の雰囲気を画から伝えてくれます。 BGMも印象的なものが多く、物語の盛り上げに大変貢献していました。全てが一体となって素敵な作品を形作っていました。

さて、ですが、下記の点は頂けませんでした。

まず、隆が会社を辞めるシーンで、隆は五十嵐からの謝罪を受けたこと。 このシーン、全て受け入れ、その上で尚も尊敬していると伝える隆が格好良すぎるのですが、実は五十嵐にも救いを持たせています。 というのも、対する五十嵐が隆をハメた原因が「隆が契約を取ると自分のノルマが上がってしまうから」。 彼女自身も会社の闇の被害者だということなのでしょう。 ですが、個人的にはそこに救いを持たせる必要があったのかなと疑問に感じました。だから何なの?感が凄かったです。

次に、隆が仕事を辞めた後にヤマモトに関する出生を追い、彼とバヌアツで再会するまでのシーン。要はBパート全般でしょうか。
・実はヤマモトは双子で、3年前に死んだ双子の兄の名前を名乗っていたこと。
・霊園に行っていたのは兄のお参りだったこと。
・兄が死んだことで自暴自棄?になっていたが、隆を見て死にそうな顔をしているのを見て、助け、見守っていたこと。
・隆が仕事を辞めてスキップをし、カバンをぶん回しているのを見て、再びちゃんと生きよう思い直したこと。
・隆がヤマモトを追ってバヌアツに向かい、そこで再開したこと。
原作を読んでいないから分からないのですが、これらの部分は元から有ったものなのでしょうか? 正直ヤマモトは幽霊でも良かったのでは?という位、序〜中盤の満足度が高かったですし、 その間にヤマモトの描写もそこまでなかったことから、退社以降に物語が大きく遷移していくのに感情がついていきませんでした。

とは言え、設定が緻密にされていたことは分かりました。 だからこそ、序盤からもう少し臭わせておく・伏線をもう少し鏤めておくなどされていれば……と感じてしまいます。

おわりに

上にも書きましたが、音楽や映像は申し分なく。 それに加え、物語の題材を表現力豊かな2人の俳優が見事に演じきった名作でした。
採点は89点で。
ブラック企業で思い悩んでいる人には勿論、生きることについて悩んでいる人、自分探しをしている若者にも是非観て欲しい快作でした。

2017/05/27 鑑賞@TOHO CINEMAS 川崎