れあこん

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こんなことをして、楽しかったか? - タダノヤサイダ 感想

はじめに

『えほんをよむ』で共演した方が出演されるとのことで興味を持ち、観劇してきました。
基本的に私は私の思う公平な視点から見ているつもりですが、そこは所詮人は人。
色眼鏡が入っている可能性もございます。その点ご了承ください。

概要

『育む男』と『枯らす男』の2人を中心に、農家の研修センターを舞台に繰り広げられる群像劇。
キャッチコピー的に彼ら2人の話がメインのように捉えていましたが、
むしろ研修センターに関わる全ての人々の生き様を1つ1つ描いている作品でした。

感想

全体的に

そもそも私が純粋な現代劇を観ることが極めて珍しいということもあり、とても新鮮に感じました。
テレビ局が放映しているドラマやら映画やらに近い印象で、物語にすいっと入っていくことができて。
所謂一般層をターゲットにしているんですかね?作品の作り自体がとても親切でした。
平易な日本語で語られているので、話している内容を全て把握した上で、
さらに役者の顔や空気感を良く見ることができました。これはこれで面白い。
難解でなくダイレクトに理解出来るからこそ、逆に行間や表情をより深く捉えることが出来るんですね。
ただ、人によっては簡単さ故頭の上を通り過ぎていくように感じるかもしれません。

また、所々挟まれるギャグは私にとってはフフッと笑ってしまう面白さがありました。
けれど、客席が爆笑するような雰囲気じゃなかったので辛かった……回によっては笑ってるんだろうなぁと。

1つ残念な点は、テーマが絞り込めていない様に感じられたこと。
話題てんこもり、人の人生も片っ端から描きまくる。それはそれで良かったのですが。
それ故に1人1人の掘り下げが浅くなり、感情移入が難しくなるスパイラル。
もう少し絞っても良かったのかな?と感じました。

印象的なシーン

特に印象的だったポイントは以下の3シーン。

まず、タダノヤサイダとバれた後、中尾が橘に対して
「こんなことをして、楽しかったか?」
「俺とは考え方がちがうな、と思っただけ」
って捨てゼリフを吐いて去ったシーン。

私はこの2人は同じ穴の狢だと思って見ていました。
2人とも他人の嫌うことを楽しむ、享楽的で自己中心的な人だと。
本作品を観終わった後でもその感想は変わっておらず、
未だに彼が何故そう言ったのか?理解できません。
ただ、だからこそ、彩子が中尾に対して
「結局逃げてばかりいるから、ものにならないのよね(?)」
みたいなセリフを吐いているのは痛快でした。

2点目は、研修所の閉鎖が決まったシーン。
(これは脚本家からしたらしてやったりかもしれませんが)

登場人物が皆絶望をして、絶望しすぎて。
もはや笑うしかなくなり、次第にみんな大笑いをし出すシーン。
そのときに『こども』とされる2人は全力で笑い転げる『大人』達を理解できず、怒る。
このシーンの胸糞の悪さと言ったらありません。
観客にも色々な方が居るでしょう。子供は勿論、思春期の学生、青年、壮年期の方々、老人。
いわゆる『大人』に属する人でも、彼ら『こども』の感情は分かるはず、分かったはず。
人にもよるのでしょうが、私はそんな『こども』の真っ直ぐさに心を折られ、
自分が侵食されている『大人』の諦念感に吐き気をして。
行き場のないドス黒く澱んだ何やらが胃に留まり続けました。

さて、最後に、主人公のラストシーン。
これは私にとってはこの作品の一番の不思議ポイント。
※もともと、主人公については境遇やら考え方やら何やら共感すること多く、
※気がついたら彼主体で観てました。(私は結婚も離婚も子供が死んでもいませんが。)
※多々感情移入していたからこそ感じた感想なのかもしれません。

本作のラスト。研修センターに居た他の生徒・関係者は、親の癌やら不倫やら浮気やら妹の復讐やら、
人によってはとんでもない事をしているのに、結果的にみんな立ち直り、幸せになっていきました。

翻って主人公。
劇中ずっと懇意にしていた元妻が突然彼氏とできちゃった結婚して。
あんなに一緒に農家をやろうと話していた井上君ともさよならをして。
結局彼には何も残っていない。

彼はこの先幸せになれるのか?ただ一人取り残されてしまうのか?考えずにはいられませんでした。
この作品で唯一、自分の底を見せず、感情もほぼ表に出さず。そんな彼が受けた罰だったんですかね。

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