れあこん

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電車に乗って行こうよ! - 非現実の王国 / guizillen 感想

はじめに

友人からのお誘いで観てきました、劇団guizillenさんの2回目の公演。 個人的に楽しみにしている演者さんが出ているということもあり、 また、1つめの公演が素晴らしかったとも聞いていたので、期待を胸に観劇してきました。 会場に到着して入り口に置いてあったポスターの闇属性な絵柄に心はホクホク。

概要やら印象に残ったシーンやら

引き籠もりの40歳の男性を題材とした、 彼が内に籠もるようになってから、様々な経験を経て、結果的に外に出て行くまでを描いた物語。

と言うと、重苦しい・ものものしい作品を想像してしまいがちですが、本作では全然そんなことなく。 参加されている方がほぼ男性、そしてゴリゴリな(印象の)方も多く、常に勢いに溢れていましたね。 出だしの「電車に乗って行こうよ」の曲から一気に雰囲気を持っていっていかれていました。

その後も、場面転換に手拍子(楽器ではない)を多用して勢いをつけ続けてる演出をしていたり、 各々の場面において、身体全身を使って元気に表現されることで、むしろそのギャップを印象づけていました。

そして、話の内容自体も笑わせるところのメリハリがシッカリしていて凄く凄く笑えました。特に、
 ・タカシの祖母が亡くなって天に召されそうな場面の、天使達が出てくる・ヘビメタエアー演奏の重ね合わせ
 ・エディさんが登場と同時に即死したシーン
 ・突然戦隊物のノリが始まり、服を脱ぎ裸になる&マリファナ?を吸い、敵さんに立ち向かう
この3つには腹を抱えて笑ってしまいました。 このシーンに限らず、ニヤッとするシーン、爆笑するシーン多くて。途中、劇というよりコントを見ている感が強かったですね。

そんな面白作品なのですが、最後のジョーとのお別れの場面ではホロリときてしまい……てか結構泣いてしまったよ。 ベタベタなんだけれどね、ジョーの手がタカシに触れずに身体を通ってしまったような演技がね。 あのタイミングで突然触れなくなったのが良かったのかな?なんでなんだろうね、不思議。ぐぬぬ、とても良かったです。

余談ですが、ほぼ常に舞台の上で堂々と着替えをしているのが面白かったですね。 頭の中を表現しているから、ってことなんでしょうか。こんな表現もアリなんだー、っていう、良い意味での発見でした。

演者さんについて

さて、今回の個人的にとても楽しかった点は、エディさんの演者さん。 上記、エディさんとして登場・即死したシーンは勿論なのですが。 お婆ちゃんとして登場&死ぬシーン、マリファナを吸っているシーン、 女の子が部屋に入ってきた時の浮かれっぷり、ジョーが暴走している際にドサクサに紛れて自己紹介している場面等等。 お調子者キャラとしての演技の数々、本当に楽しく観ることができました。 最後、崖の上に座られていたシーンでは、ジョーにおいていかれた後の反応すらも面白くて。最早ズルいなとすら。笑

私は今まで演者さんにスポットを当てて作品を選ぶ・観ることはしない人間でした。 気になる演者さんも2人程居ます(内1人は今回出演されている方です)が、あまり人に興味を持つことはしない主義で。 けれども、彼の作品は今後も観てみたいな、と思えて。そんな素敵な演技でした。

マイナスに感じた点をいくつか

最初の演出(遅刻した人にドッキリ云々)は好きでないです。 あの表現をすることで、ある種の「悪意」を観客に持たせることになる。 心への揺さぶりという意味では良いのかもしれない、手法としては納得出来る、けれど。 そんなことしなくても直球でお話を始めてくれても、そのままスンナリ入ってくるのになぁ……って。

また、会場自体のことで言うと、見辛い感がありました。 座って演技されている場面も多かったのですが、そこについては残念ながらほとんど見えず…… 座られている方、上手く話せない設定上、表情で演技されている箇所も多かったと思うので、残念でした。

おわりに

この脚本を描いた人は多重人格障害を患ったことがあるのか、またはその類の方なのでしょうか。 両手を引っ張られて自分が引き裂かれそうになるシーンや、ジョーが消えることを嫌がるシーンで、特に感じました。 何故患者さんは中々その世界から出てくることが出来ないのか?正しいのかは別として、1つの答えを観、納得できた感がありました。

さて、多重人格障害のタカシさんはまぁまだ救いがあるのかも知れないけれど。 途中で彼の部屋にやってきて、まさかのタカシ自身にボコボコに言われてしまったサノさん。 彼が散々言われた台詞は、いわゆるアーティスト志望の方、似非芸術家気取りの方、 そしてそれを言い訳に社会に適応出来ない方ーーーそんな方にはドストレートに響くのではないでしょうか。 不器用に生きるしか出来ないことを認め諦め、ソレを開き直って受け入れてしまう事の屑っぷり、傲慢さを諭された気がしました。